身代わり王子にご用心




心臓が、止まるかと思った。


目の前に、ブルーグレイの瞳があって。


腰に腕があって体が引き寄せられて。


顎に手を添えられた――と思えば、唇に柔らかくてあたたかい。少し湿った感触がして。


自分の唇が彼のそれと触れているんだ……そう理解した瞬間、身体の内側からドンッと殴られたような衝撃を受けた。


キス……してる?


私と、高宮さんが。


なんで……?


なんで? なんで??


思考が停止して、周りの時が止まったかと思えた。


呼吸すら忘れて、彼の彫りの深い顔だちをぼうっと見てたら。開いた口に、コロンと何かが入ってきた。


舌に乗ったあまりの酸っぱさに顔をしかめると、高宮さんの唇が心持ち上がってた。絶対、愉しそうに笑ってる。


「面白い。アンタもこんなイタズラするとはな」

「面白がらないで! それで……ひ、ひ……ひとのく、唇を」

「貰ったモノを返しただけだ」


< 83 / 390 >

この作品をシェア

pagetop