透明人間
 昇の背中は小刻みに震えていて、私は寒いのかな、と馬鹿なことを考えてしまった。未来の私であったら、確実に今の私を殴っていることだろう。

 しばらくの間、私はどうすることもできなかった。昇をしばらく眺めて何の感情も芽生えなかったが、昇の唇がわずかに動いているのが見えた。

 そして耳をよく傾け、昇の言っている言葉に耳を傾けた。しかし私は後に、その言葉を聞いて、聞かなかったほうが良かったと思った。

 夜の聖者が私を睨んでいる。私はその場から聞くことしか許されなかった。ただ昇の言葉が耳に入るのを待っているだけ。

「お前の…せいだ…お前のせいだ」

 その言葉が耳に入ってきた時、夜風が吹いて葉が揺れるように、私の体は震撼した。


 そう、こんな何だかんだで昇の心は誠也のことを考えるだけで苦になっている。誠也さえいなくならなければ、昇もこんなにはならなくなったはず。

 確かに誠也がいなくなったのは私のせい、かもしれない。私の不注意で、監視ミスでいなくなった、失踪したのは紛れもない事実であるが、こうなってしまった以上、今は探し出すしかない。

 私はそう心で密かに誓いながらも、昇のことを懸念に思い、記者の応答を続けていた。苦にはならなかったものの、それは長く、代わりに肩をこってしまった。延々と続く記者会見の中で、使われるのはごくわずか。私はそれを知っていながらも、一生懸命に応答をした。それをすることが最善の方法だと分かっていたので、今は時が流れていくままに身を任せて、やはり待つことしかできない。辛く悲しいことがあっても、例え私が犠牲になったとしても、死ぬ前までにはしかとこの体で抱きたい。

 私は脊髄に切実な思いという大きな剣で刺されているような思いであった。
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