透明人間
 やっと終わった。長かったなぁ。

 そう思いながら、私は控え室らしいところでホッと一息をついた。しかしそんな一息も、後に後悔の念と変わるのであった。さらにその上に、重い錘がのしかかっている。しかしそれもしょうがないことである。

 しかしそんなこともあり、逆に、白く包まれた控え室のようなところは、私の心を浄化してくれ、だんだん落ち着いてくる。無駄な邪念を取り払い、身もすっきりとなっていくようである。

 とりあえず、くたびれた身体を楽な姿勢でイスに身をまかせた。

 その時である。他人に見せるにはちょうど無様な格好をしたところで、あの刑事が入ってきたのだ。私はすぐさま足を引っ込め、姿勢を整えた。そして顔が瞬時に紅潮したのが分かった。

 鶴見は失礼しますと言って体半分だけを部屋に入れると、なぜだか少々上がっているようで、床を見つめていた。

「すみません、お疲れのところ。少し時間を割いていただいてよろしいでしょうか」

「ええ、はい、いいですが、何ようですか」

「ありがとうございます」

 しかしそれにしても失礼である。ノックもしないで入ってきたからだ。いくら面識があり、急ぎであっても、礼儀は忘れてはいけない。私はそう思いながら、鶴見の行動をボーっと眺めていた。

 鶴見は顔を上げ、静かにドアを閉めた。そして壁に畳んで立てかかってあるパイプイスを手に取り広げ、それに座った。

 そして鶴見の話が始まった。

「えっとですね。お話というのは、ちょっと言いにくいのですが、今日やった記者会見の報道を、三日後まで待ってもらえないか、ということなんですね。ご理解いただければと思いまして、私自らが説得に参りました」

「え…つまり、三日後までは、今日やったことは、だんまりですか」

「まあ、そういうことになりますね」

 私はよく分からない鶴見の言い分に腹が立った。なぜ待たねばならないのか。心の底から怒りがこみ上げてくる。私はついに感情を抑えきれず、大声を上げてしまった。
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