透明人間
その後の言葉が出なかった。衝撃が体の中でこだまして、振動は体中に伝わる。私は手首を抑えて抑制をするも、手首から逆の手へ、さらに挟むように逆の手からもとの手へと振動を追い込み、手が据えられている手首とその逆の手の指先が交わったちょうど一点に電気が流れ込んでいるようであった。
私はそのまま、しばらく麻痺して、やがてゆっくりと口を開くのであった。
「後は…委任します。引き続き、よろしくお願いします」
もう私が出る幕ではないと思った。今は身を引いて、さらに待っていなければならないと思うと、胸がひしひしと痛む。
私は待つことに、苦痛を感じた。
私が感じる三日間は、三年に感じる、みたいな事はなかった。一秒、また一秒過ぎるのが、体に肌に、直に感じたのだ。しずくが一滴、また一滴と、大きな器に満たされていくまでをずっと見ているような、じわりじわりとやってくる時間を一つ一つ綿を摘むようにして、私は無垢で空虚な世界で生きていた。
その世界は、言うなれば、何もない、無の世界である。この世の何にも変えられない、本当の無の世界。そこは喜怒哀楽や他の感情を何も受け付けさせない。そこにいると、私が私でいられなくなるような、そんな空間に私は一人でいた。いや一人ではなかった。昇がいた。私との距離はかなりあったが、同じでいることは間違いない。もしその空間に大きな壁が私と昇の間に隔てていたなら、私は昇の存在に気が付かなかっただろう。
そして私は今ここにいる。ぽかんと口を開けたまま天井を見上げ、手足が四方に投げ出した格好でイスに座っている。何もない毎日が過ぎていたのに、リビングはいつの間にか脱ぎっぱなしの衣服が散乱していた。
今日も昇はいない。昇は変わらずに会社に行っている。その理由は私が刑事の言っていた可能性を昇にはまだ話していなかったからだ。というより、敢えて話していない。
あの日、私が帰ってきた時、ひどくやつれた私を心配した。その時私はその日の出来事を話そうとしたが、とっさに口ずさんだ。それもそのはず、もし昇がこのことを耳にしたら、昇の中のエゴが完全に崩壊していたことであろう。長年付き合ってきた仲だ。それぐらい私には理解できる。自分が自分でいられなくなるのは私だけでいい、と私は思っていた。
私はそのまま、しばらく麻痺して、やがてゆっくりと口を開くのであった。
「後は…委任します。引き続き、よろしくお願いします」
もう私が出る幕ではないと思った。今は身を引いて、さらに待っていなければならないと思うと、胸がひしひしと痛む。
私は待つことに、苦痛を感じた。
私が感じる三日間は、三年に感じる、みたいな事はなかった。一秒、また一秒過ぎるのが、体に肌に、直に感じたのだ。しずくが一滴、また一滴と、大きな器に満たされていくまでをずっと見ているような、じわりじわりとやってくる時間を一つ一つ綿を摘むようにして、私は無垢で空虚な世界で生きていた。
その世界は、言うなれば、何もない、無の世界である。この世の何にも変えられない、本当の無の世界。そこは喜怒哀楽や他の感情を何も受け付けさせない。そこにいると、私が私でいられなくなるような、そんな空間に私は一人でいた。いや一人ではなかった。昇がいた。私との距離はかなりあったが、同じでいることは間違いない。もしその空間に大きな壁が私と昇の間に隔てていたなら、私は昇の存在に気が付かなかっただろう。
そして私は今ここにいる。ぽかんと口を開けたまま天井を見上げ、手足が四方に投げ出した格好でイスに座っている。何もない毎日が過ぎていたのに、リビングはいつの間にか脱ぎっぱなしの衣服が散乱していた。
今日も昇はいない。昇は変わらずに会社に行っている。その理由は私が刑事の言っていた可能性を昇にはまだ話していなかったからだ。というより、敢えて話していない。
あの日、私が帰ってきた時、ひどくやつれた私を心配した。その時私はその日の出来事を話そうとしたが、とっさに口ずさんだ。それもそのはず、もし昇がこのことを耳にしたら、昇の中のエゴが完全に崩壊していたことであろう。長年付き合ってきた仲だ。それぐらい私には理解できる。自分が自分でいられなくなるのは私だけでいい、と私は思っていた。