透明人間
人間は本当の恐怖を知らない。背水の陣、四面楚歌、虐待、幽霊、飢え。他にも多種様々だが、これらは真の恐怖ではない。これらを長く経験し、やっとのことで辿り着いた領域、エゴの崩壊が誰もが恐れて、そしていつも背中の後ろに隠して、いつも見えないところに置いている。本来一般の人では誰も知らない、知ることができないその恐怖は、リスの棲みかのように、小さく暗い穴の奥のまた奥の住処に潜んでいる。誰も見ず、誰も触らずに育ってきたその生き物は、穴から出てきたと思うと、一気に襲い掛かってきて、戦意を喪失させる。そんな恐怖を、私は背後から襲われたようだ。
そして一人というのは何かと喪失感から遠ざけてくれる。時間という波に身を任せて、過ぎてゆく時の刻みを聞きながら、私は私でいることを確認する。そんなことを考えたことはなく、どうすれば今の状況を脱し、元の自分に戻ろうとするのは、やはり自分が良く知っている。経験と慣れで、すでに体に染み付いている。
脱力状態の私は、いつまでそんなことをしていたことであろうか。私は覚えていない。ただ憶えていることといえば、白いが時々黄色いしみのような波紋が広がる空を一様に見ていたことぐらいだ。
私は再びため息をついた。今日は何回目であろうか。無論、私はそんなことを意識していない。
そして昼下がりの太陽がやや傾いてきた頃であった。
私はその音を聞いても気付かなかった。ドアの開閉する音だ。私はまだイスに寄りかかっていた。
「ただいま…」
そして一人というのは何かと喪失感から遠ざけてくれる。時間という波に身を任せて、過ぎてゆく時の刻みを聞きながら、私は私でいることを確認する。そんなことを考えたことはなく、どうすれば今の状況を脱し、元の自分に戻ろうとするのは、やはり自分が良く知っている。経験と慣れで、すでに体に染み付いている。
脱力状態の私は、いつまでそんなことをしていたことであろうか。私は覚えていない。ただ憶えていることといえば、白いが時々黄色いしみのような波紋が広がる空を一様に見ていたことぐらいだ。
私は再びため息をついた。今日は何回目であろうか。無論、私はそんなことを意識していない。
そして昼下がりの太陽がやや傾いてきた頃であった。
私はその音を聞いても気付かなかった。ドアの開閉する音だ。私はまだイスに寄りかかっていた。
「ただいま…」