夢見るきみへ、愛を込めて。
*
「いやーっ! もう寒すぎ!!」
1日の講義を終えて外に出ると、翠は両手で二の腕をさする。
「そうかなあ」
「今日の最高気温、3度なんですけど。灯の薄着っぷりを見てるだけで体感温度がさらに低くなる!」
薄着だと言われるのも翠の寒がりも今に始まったことじゃないけど、そんなに寒いだろうか。
雲間から零れる夕日の橙色を仰ぎ見る。曇っていようと、木々が寂しげに小枝を揺らしていようとも、どこかに暖色があるだけで温かく感じた。
「カフェでも寄ってく? 今日バイトだっけ」
「バイト~。付き合いたいとこだけど、もう行かなきゃ」
「そっか。じゃあ……翠、待った」
別れ際、翠が羽織るファー素材のMA-1に付着していた埃に手を伸ばす。
「何? 埃? ありがとーっ」
「ううん……じゃ、バイト頑張って」
「おうよ! 灯も夜道には気を付けるんだよ!」
大学近くの古着屋でバイトする翠と別れ、埃じゃなかったと言えずに取ったそれを見る。
指先で羽を休めるのは、雪虫と呼ばれる5ミリにも及ばない小さな虫だった。白いファーを纏うような姿はふわふわとしていて、風に流されながら飛ぶ姿さえ、雪を思わせる。
私はあまり虫が得意じゃないから、正式名称もこの時期に現れる理由も知らないけど、雪虫だけは昔から好きだった。
今年も、雪が降るんだね。
ふうっと息を吹きかけると、小さな雪虫は軽やかに宙を飛び、冬の訪れと初雪を知らせにいく。そのさまに白銀の世界を思い描き、頬が緩んだ。
「灯」
会いたくなかった人に、会ってしまうまでは。
「いやーっ! もう寒すぎ!!」
1日の講義を終えて外に出ると、翠は両手で二の腕をさする。
「そうかなあ」
「今日の最高気温、3度なんですけど。灯の薄着っぷりを見てるだけで体感温度がさらに低くなる!」
薄着だと言われるのも翠の寒がりも今に始まったことじゃないけど、そんなに寒いだろうか。
雲間から零れる夕日の橙色を仰ぎ見る。曇っていようと、木々が寂しげに小枝を揺らしていようとも、どこかに暖色があるだけで温かく感じた。
「カフェでも寄ってく? 今日バイトだっけ」
「バイト~。付き合いたいとこだけど、もう行かなきゃ」
「そっか。じゃあ……翠、待った」
別れ際、翠が羽織るファー素材のMA-1に付着していた埃に手を伸ばす。
「何? 埃? ありがとーっ」
「ううん……じゃ、バイト頑張って」
「おうよ! 灯も夜道には気を付けるんだよ!」
大学近くの古着屋でバイトする翠と別れ、埃じゃなかったと言えずに取ったそれを見る。
指先で羽を休めるのは、雪虫と呼ばれる5ミリにも及ばない小さな虫だった。白いファーを纏うような姿はふわふわとしていて、風に流されながら飛ぶ姿さえ、雪を思わせる。
私はあまり虫が得意じゃないから、正式名称もこの時期に現れる理由も知らないけど、雪虫だけは昔から好きだった。
今年も、雪が降るんだね。
ふうっと息を吹きかけると、小さな雪虫は軽やかに宙を飛び、冬の訪れと初雪を知らせにいく。そのさまに白銀の世界を思い描き、頬が緩んだ。
「灯」
会いたくなかった人に、会ってしまうまでは。