夢見るきみへ、愛を込めて。
風になびく、艶のある黒い髪。優しそうな困り眉。どこか物憂げな、二重のアーモンド型に納まる薄茶の瞳。筋の通った鼻も、男性にしては厚みのある唇の形も、私の胸を瞬時にざわつかせた。
「司(つかさ)、さん……」
どうしてここに。聞けない問いが、胸を締め付ける。
分かってる。知りたくなかった答えが、脚を動かす。
「待って……っ灯! ごめん、こんな突然、待ち伏せするようなことをして、悪いと思ってる!」
通り過ぎようとした私の手首を掴んだ司さんは、吐息に混ぜるみたいに「ごめんな」と小さく謝る。
私に尾行がついたのは、やっぱり司さんが関係していたのだと思った。
最初は、尾行される理由が分からなかった。でも考えれば、思い当たる理由はひとつだけだった。
「ずっと探してた。もう一度会いたくて。話を、したくて……灯の負担になると分かっていたけど、どうしても」
数年ぶりに聞いた声に、本当に申し訳なさそうな表情に、込み上げるものがあった。だけど、それが根付かないようにと抵抗する気持ちのほうが強かった。
「すみません。急いでるんです」
手を振り払い、駅とは反対方向に駆け出したら歩行者にぶつかり、顔も見ずに謝った。一刻も早く立ち去ることしか優先できなかった。
「灯っ!!」
司さんが私を呼び捨てにするのは、真面目な話をするときだけだと知っていても、振り返らずに走った。
強引に引き止めることも、追い掛けてくることもない彼の人柄に、泣きそうになりながら。
私はただひとつ、絶対に、死ぬまで忘れられない夢を脳裏に描いていた。