夢見るきみへ、愛を込めて。
「でも、起きたことは、どうしようもないよ」
もっともな意見に口を結ぶも、納得できない私は眉を寄せた。すると彼は困ったみたいに眉を下げ、口元をゆるめた。
「はがゆいんだね」
まるで子供をなだめるような表情に、目が釘付けになる。親でも恋人でも友達でさえないのに。どうしてか私は従順に、彼の言動ひとつも取り零すまいとしてしまう。
「そんなきみに、朗報です」
おどけながら首を傾げた彼がどんな風に続けるか分かるような気がした。
「もし、まだ、彼の目が覚めていないとして。仮に今、無事なだけかもしれないとしても。きっと家族は、きみに感謝してるに違いない」
ふふんと得意げに、なんの根拠もなく私を指差す彼は次に、同一人物とは思えないくらい、穏やかに笑ってみせた。
「だって、通報がなかったら。きみがいなかったら。警察も病院も対応が遅れて、そもそも助かってなかったかもしれない」
「……」
「きみが助けたんだ。あと一瞬、1日しか残ってないとしても。きみのおかげで消えずに済んだ時間がある 」
もしもの話を、私とは全く違う気持ちで、思いもしなかった方向から語る彼の瞳が、あどけなく輝いて見えた。
私が助けた、なんて。ありはしないのに。
「そんな話をしてたわけじゃ、ない」
「そうかな。そうだとしても俺は、きみの言葉を聞いて、感じたままを言っただけだよ」
否定も肯定もできなくなった私の中で、彼の優しさがしんしんと降る雪のように積もっていく。
そんなものはいらないと、明確な意思を持って払いのけても、消えることなく。ずっと前から消えずにある哀しみや苦しみの上に積もっては溶け合って、どれがどれだか分からなくなる。
私は彼に対して何を感じているんだろう。これからどんな話をすればいいんだろう。いっくんへの想い以外、何も持ってやしないのに。
揺さぶられて、落ち着いて、また乱されて。それはまるでスノードームのようにいつまでも、私の中に残っていた。