夢見るきみへ、愛を込めて。


「あーあ。冬休み嬉しいけど、嬉しくなーい」

1日の講義が終わり、玄関ホールの真正面に続く螺旋階段へ足をかけると、翠がうしろでぼやき始めた。

「冬休み明けたら試験だし。冬休み中もバイト以外特に予定ないし。パッとしないわあ」

冴えないという意味合いなら、私も似たようなものだけれど。

「翠の家は毎年家族で初詣が恒例じゃなかったっけ」

「それね。ついに、アンタ他に一緒に行く人いないの?って言われたわ。家族行事だって毎年無理やり連れ出したのは誰だーって話よね。あたしだって彼氏がいたら、そっち優先するっての!」


ふくれっ面になる翠は仲のいい家族と過ごすよりも、まだ見ぬ彼氏と過ごしてみたいらしい。そういえば夏休み前にも同じような愚痴をこぼしていたような。


「いいじゃん。翠に彼氏ができたら一緒に過ごせないって思ってるみたいだし。優先できる内に親孝行してあげたら?」

これも恒例と言えば恒例かと、苦笑を漏らしながらなだめにかかる。

「え~……遊べる内に遊びたーい」

「またそんなこと言って。私からすれば翠は充実してるよ」


大学のサークルに入ってなくても顔見知りは多いし、バイト仲間と夜な夜な飲みに歩いては寝不足だ二日酔いだとぐったりしてる日もあれば、給料日前には行きたい場所や欲しいものをいくつもピックアップしてくる日もある。

同い年でも、大学とバイト先と自宅を行き来しているだけの私とは似ても似つかないくらい、翠はいつも楽しそう。


「きっと彼氏もすぐできるよ」


首のうしろを押さえながら階段を降りる。返事がないことを不思議に思い振り返ると、翠が慌てて「そうかな」と笑みを作ったように見えた。


「……そうだよ。翠は素敵だもの」

「ええ? やめてよ急にー」

照れるじゃん、と隣に並んだ翠の横顔はやっぱり曇っている。

私、何かマズイこと言っちゃったかな。
思い当たらず考え込んでしばらくすると、翠が沈黙に耐えきれないように唸った。


「ダメだ、ごめん灯!」

玄関ホールに降り立ってすぐ、腕を掴まれた私は目を瞬かせる。
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