歌舞伎脚本 老いたる源氏

第六幕宇治1

役名
   源氏
   柏木
   声
   囃子
   唄

(天空。雲浮かぶ。雲が他の屋台上空より吊り中央に浮かぶ。
雲の上。源氏と柏木が乗っている)

柏木 あれより十年の月日が流れ。源氏殿の御孫匂う宮、
 やんちゃ盛りでござりまする。
源氏 なんの柏木ソナタの息子、何度も言うがそなたの息子、
 薫は慎重に慎重に、できた息子よ、ふん。

柏木 私の血筋に似合わず仏道心の篤い。
源氏 今に見ておれ、薫が煩悩でのたうち回る姿を。
柏木 そうはさせませんよ私の子ですから。
(二人、下界を見下ろす)

源氏 ああっ、薫が宇治の姫君に一目ぼれ。今に化けの皮が剥がれるぞ。
柏木 いえいえ、薫は慎重ですからご安心を。あれ、あの乳母には見覚えが?
源氏 マメじゃなあ薫は。姫が目当てなのじゃ。

柏木 そんなことはありませんよ。俗聖の師八宮のために。
源氏 ふん、将を射んとすれば馬を射よ、というではないか。

〽 人里離れた山奥に
  ほう、そんなところに
  みめ麗しき姫二人、いたら
  いたら。ひょっとしたら、
  あるかもしれない。
  あるかもしれない、ふふふふふ。

柏木 匂う宮と薫が話をしておりますが。
源氏 二人の下心見え見えじゃ。もっとこううまくやれんもんかのう。
柏木 いやいや深入りは禁物。

源氏 まだまだ子供じゃ。じれったいのう。
柏木 薫は私に似て慎重なのでございます。
源氏 嘘をつけ、何が慎重じゃ。うぶな女三宮をかすみ取ったくせに。
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