聖乙女(リル・ファーレ)の叙情詩~奇跡の詩~

その夜、リュティアは眠れずに、ずっと考えていた。

いや、眠らずに、といったほうがよいであろう。とても大切なことだと思ったから、ベッドに入ったものの、目は開いて天幕の天井を見つめたまま、ずっと考えていたのだ。

自分の気持ちについて。

―なぜ今日、自分は泣いたのか。

わからない。色々な感情がごちゃまぜになっていたから正確につかむことができない。

ただ久しぶりに見るカイが、ひたすらに頼もしく、凛々しく見えた。それは確かだ。

―なぜ…?

わからない。ただ彼を見て、自分の中で膨れ上がる気持ちがあった。

抱き締めてほしいと、思ったのだ。

―なぜ、抱きしめてほしいと思ったのか?

考えろ…。

彼に抱き締められる―そう考えただけで、リュティアの体はあやしくざわめく。今日この天幕の不寝番を務めるカイが天幕のすぐ外にいることがわかっているから余計に想像してしまって、リュティアは我知らず頬を染め、自分の体を抱き締める。

自分は少しおかしい。

なぜこんな気持ちになるのか。

考えろ…。

何時間もそうして考え続け、リュティアはようやくひとつの答えにたどりついた。
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