聖乙女(リル・ファーレ)の叙情詩~奇跡の詩~
激しい水音が迫ってくる。もう近い。セラフィムはかっと目を見開く。

すると巨大な光の壁が箱のようにすっぽりと魔月もろともピューアの村全体を覆った。

「ぐっ……」

セラフィムの体に大きな負荷がかかった。彼の顔が苦痛に歪むが、彼は術を続けた。

光の壁に意識を集中させ、わざと一か所穴をあける。その穴を、水路の入り口と重ね合わせる。そして光の壁を触手のようにセラフィムのいる方へと、実物の水路よりひとまわり大きな光の水路として延ばしていく。
激流がついにセラフィムのもとへと到達した。セラフィムは激しい波にたくみに乗り、光の水路の中をなめらかに泳いで、一直線にピューアへと向かった。

彼に触れた水はみるみるうちにどっとその水量を増し、光の壁でつくられた水路をはちきれさせんばかりの勢いで光の壁の箱の中―ピューアへなだれこむ。

光の壁の箱の中でせきとめられた水はどんどんたまり、魔月もろとも村が水没していく。

いたるところで魔月が溺れ、苦しみだした。

この水はセラフィムのすべての聖なる力を織り込んだ水であるから、触れれば魔月は痺れ、泳ぐことができない。

これがセラフィムの奇策であった。

200匹もの魔月を一網打尽にする唯一の方法であった。
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