聖乙女(リル・ファーレ)の叙情詩~奇跡の詩~
エライアスとザイドがいかに勇敢に火竜と戦ったかを、誰もがフレイアに口をそろえて教えてくれた。魔月の群れの中から火竜だけをおびきだし、網でとらえ、エライアスとザイドの二人が脳天にとどめをさしたのだという。

だが二人は火竜の最後の炎に焼かれて亡くなった―…。

それらの話はただフレイアの中を通過するだけで、何も感じられなかった。

やることは山ほどあった。

即位の準備、正式な国葬の準備、さらなる魔月との戦いの総指揮…。虹のたもとが今いる王都ヴァラートの槍の広場にあたるとわかってはいても、宝玉を持ってそこまで行く時間すらなかった。

忙殺されながら、フレイアの心はまるでうつろな穴になってしまったようだった。

すべてが通過するだけなのだ。何も感じられないのだ。

「姉様」

パールに話しかけられたとき、フレイアは一瞬自分がどこにいるのかわからなかった。

むせかえるような緑の匂いに、ああ、ここは植物園だと認識する。

だがなんのために植物園に来たかは、思い出せなかった。

「はい、これ」

パールが小さな手で差し出したのは、赤く熟したグミの実の砂糖漬けだった。

「僕が泣いているとき、姉様がこれをくれたでしょ? 姉様が泣いているから、今度は僕があげるよ」

「泣いてなんか、いないわ」

反射的に、フレイアはそう答えていた。

その言葉どおり、頬に濡れた感触はない。

二人の死を知ってから、一度たりとも泣いていないのだ。
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