聖乙女(リル・ファーレ)の叙情詩~奇跡の詩~
夜。

空が泣くために閉じた瞼のような細い三日月の下、リュティアはルクリアの庭に一人佇んでいた。

守るために。

この主宮殿のルクリアの庭こそが、〈光の道〉なのだから。

そして決戦の時、光の道のもっとも大事な部分、核(レンズ)と一体化し、その身に封じて守ることができる者。ヴィルトゥスにはできなかったその使命を帯び、新しく光神により生み出された守り人―それこそが“聖乙女(リル・ファーレ)”であったのだ。

そよぐあたたかい風が、桜色の髪を揺らす。

こんなに優しい楽園の風が、今のリュティアには重く、胸が痛い。

知ってしまったからだ。この風と共に刻まれた歴史を。

かつて、この楽園の風はエルラシディア全土を流れていた。それが変わったのはリュリエルの死の直前だ。

リュリエルの死――それをリュティアはまざまざと思い返すことができる。
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