聖乙女(リル・ファーレ)の叙情詩~奇跡の詩~
ベッドの上に身を起こしたリュティアはベッドを囲む面々に視線を走らせた。ラミアード、フリード、グラヴァウン、カイ――一人ひとり、誰が誰なのか、確認していく。今のリュティアにはそれが必要だった。

心の表面は凪の日の冬の海のようにしんと冷えて静かだ。だが水面下、心の深いところではいろいろな気持ちが渦巻き荒れ狂っていた。

リュリエルの知識と記憶はあまりにも膨大だった。リュリエルが黄泉の国で知り得たことまで含まれているのだから。それがいっぺんに流れ込んできたものだから、リュティアは今、自分がリュリエルなのかリュティアなのか、リュティアとはなんだったのか、誰なのか、わからなくて、不安で、泣きたかった。それと同時に、また生まれられた事実が身に染みて愛おしくてたまらなくて、泣きたかった。そういったすべての感情を自分の中でうまくまとめられなくて、泣きたかった。

けれど泣けない。泣きたいのに、涙が出なかった。それほどにリュリエルの記憶は―リュリエルが経験した衝撃は大きすぎた。

そのすべてを受け止めることはまだできなくても、ただひとつ、わかっていることがあった。

目覚める直前、麗しの滝の妙なる調べのような声が告げたこと…。

「お兄様……光神様のお告げを聞きました」

リュティアのこの言葉に、男たちは色めきたった。

「なんと?」

「王同士の戦いで、この魔月と人間の大戦に決着をつけよと。どちらかの王が滅びるとき、どちらかの種族が共に滅びるだろう、と…」

最終決戦。

その予感に、男たちはごくりとつばを飲み込む。

「魔月王“猛き竜(グラン・ヴァイツ)”にも同じお告げが闇神より下されたということです。だから彼がもうすぐここに来る。〈光の道〉を狙って」

「人間の王とはやはり…」

ラミアードの確かめるような視線に、リュティアは深い薄紫の視線を返した。

深い深い哀しみの宿った視線を返した。

「私が、戦います」

ただひとつ、わかっていること。

それは、自分が、戦わなければならないということ。〈光の道〉を守る力は、自分にしかないこと。

リュティアは宣するなりすぐさま瞳を伏せたから、カイの視線に気づかなかった。眉根を寄せ、痛ましげに自分をみつめる視線に気が付かなかった。
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