聖乙女(リル・ファーレ)の叙情詩~奇跡の詩~

もう幾度、朝が戦う二人を迎え、夜が戦う二人を包んだのだろう。

時間の感覚など、二人にはとうになかった。

力は完全に互角。

それぞれ浅い傷を体中に負っていたが、致命傷はない。

ライトは剣をぶつけるたびに自分の中で膨らむ、相反する想いを感じていた。

聖乙女を殺したいという渇望。

聖乙女を愛しているという感情。

彼女をこんなにも殺したいのに、こんなにも守りたい。

彼女の存在だけが、自分を揺り動かす。

『あなたのことが、好きなのです…!』

そう彼女に告白されたとき、なぜ自分が怒りを感じたのか、今ならわかる。

惹かれていたからだ。

ふと、闇神も同じなのではないかとライトは思った。

なぜ闇神が〈光の人〉を殺したのか、ライトにはわかる気がした。

闇神は、二人に怒りを感じたのだ。惹かれていたからだ。二人の何かに。

いったい、何に――?

リュティアの息遣いがすぐそばで聞こえる。躍るリュティアの桜色の髪がさらりと腕にあたる。彼女の強いまなざしがまっすぐに自分を見据えている。そのすべてにこみあげる愛しさを感じながら、ライトは自分に問いかける。

いったいいつから、こんな気持ちが育ち始めていたのだろうと。

地竜に襲われていた彼女を救ったのは、ただ腕試しがしたかったからだ。地竜の攻撃から彼女を抱いて守ったのは、ほんの気まぐれだ。稲妻の力で地竜を倒したあと、彼女に歩み寄った時…

あの時だ。

彼女はぽろぽろと涙をこぼしていた。ライトはあの時すでに、彼女に惹かれはじめていた。

あまりにも美しい彼女の涙に。それが宿す感情に。

それはいったい、なんという感情だろう?

―わからない。けれど確かにあの日から、想いは始まった。

伝えることのできない、この想いは。

決して伝わらないだろう、真実の気持ちは。
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