聖乙女(リル・ファーレ)の叙情詩~奇跡の詩~
「奇跡なら…もう起こりました」

わかってはいたはずなのに、リュティアのこのセリフにカイは衝撃を受けた。

―そうか、やはり、ライトは生きていたのか…。

カイの衝撃などわからずに、リュティアはわずかに瞼を伏せ、“奇跡”を思い返していた。

三か月前のあの日…カイが倒れた後、光神を降臨させたリュティアは、世界中に癒しの力の雨を降らせた。リュティアに意識はなかったが、人々のすべてのけがが癒え、破壊された建物までももとどおりになったという。

しかし、その力をもってしても、最強の光の剣アンジェルによって負ったカイの怪我を完全に癒すことはできなかった。

力の行使が終わり、光神が去っても、リュティアはなぜか死ななかった―これもひとつの奇跡と呼べるだろう―。死ななかったが、もう癒しの力は失っていた。瀕死のカイに、できることはなかった。ただ祈ることしかできなかった。

今夜が峠だと医師に言われた日の衝撃を覚えている。リュティアはずっと意識のないカイのそばで、彼の手を握り、届かぬ声と百も承知で励まし続けた。祈り続けた。

そしてカイは今、ここにいる。

まだ医師から安静にするよう言われているけれど、ここにいてくれるのだ。

それこそが、奇跡だった。

リュティアのたったひとつの奇跡だった。

リュティアはそれを、言葉にする。もう最後だから、言葉にする。

「私にとっての奇跡は、あなたがこうして、生きていてくれることですから…」

「え………?」

思いもかけぬ言葉に、カイは思わず振り返った。
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