聖乙女(リル・ファーレ)の叙情詩~奇跡の詩~
―リュティアが残した傷跡。

三か月前のあの日、リュティアの悲しみの刃が確かに自分を貫いた。だがライトは生き残った。気が付くとこの傷痕だけが残り、生まれ育ったトゥルファンの山奥に倒れていたのだ。

なぜ自分は生き残ったのだろうか?

〈光の人〉ヴィルトゥスが自分ではなかったことが今ならわかる。

あの時自分を守るために飛び出してきた男こそが、ヴィルトゥスだった。

彼が、最後の最強の力を聖乙女に与えたのだ。

ライトが夢に見たのは闇神の視点だったのだろうとライトは思っている。闇神は二人に惹かれ、その感情を観察していたのだろうと。だから彼が生き残ったのは〈光の人〉だったからではない。きっと、人間だったからだ。
愛を持つ、人間だったからだ。

少年は頬を染めながら、無邪気に問いかける。

「世界で一番愛する人? その人は、どこにいるの?」

「フローテュリアだ」

「会いにいかないの?」

「行かない」

「なぜ?」

ライトは空を振り仰いだ。

空はどこまでも澄んで青く、すがすがしい。

この同じ空の下に、ライトの愛する人は生きている。

それを想うだけで、想えるだけで、ライトには十分だった。

「愛しているから…」

そう答えて、ライトは笑った。

それは朗らかな、愛に満ちた笑みだった。

「さあ、今日も剣の稽古をするんだろう? しごくぞ」

「望むところだよ! 僕は仙人みたいに、強くなるんだから」

青空は広い。

その下で、こうして新しいストーリーが次々と、紡がれていく…。
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