聖乙女(リル・ファーレ)の叙情詩~奇跡の詩~
少年は走る。

針葉樹の木々を抜け、まだわずかに雪の残る地面に時折滑りながら、走る。走る。

大好きな人に会うために。

春とは思えない、冷たい風が火照った体に心地よい。

あの木をぐるりとまわったら、小屋が見えるはず。大好きな人はそこにいるだろうか。それとも河原に水汲みに行ってしまっただろうか。だとしたら河原まで行かなくては。水汲みを手伝って、褒めてもらう。それもいいなぁと少年は心躍らせたが、木をぐるりとまわったところで探し人の姿がすぐに目に飛び込んできた。

井戸端に、その人はいた。

少年は頬を上気させ、思わず叫ぶ。

「仙人!!」

駆け寄りながら、少年は感嘆の声をあげずにいられなかった。

大好きな人―仙人が見事にしなやかな筋肉のついた裸の上半身を見せていたからだ。ちょうど井戸の水を浴びているところだったのだろう。ああ、僕もこんな男になりたいと熱い思いを抱きながら彼に近づくうち、少年は目を丸くしていった。

仙人の体に何かで貫かれたような無残な傷痕をみつけたのだ。

「お前、また来たのか」

髪についた水滴をはね散らかしながら振り返り、腕を組んだその人は――

ライトだった。

「せ、仙人、その傷痕は?」

「これか? これは…」

ライトは自らの傷痕にそっと視線を向けた。それは無残な傷痕に向けるには不似合いな、愛おしむような視線だった。

「世界で一番愛する人が、俺に残した傷だ…」
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