聖乙女(リル・ファーレ)の叙情詩~奇跡の詩~
「きっと、王宮の中に、裏切り者がいたんだ。僕、怖くて…」

ちょっと震えながら瞳を伏せるのがコツだ。

「大丈夫よパール! 姉様が必ず、そいつをみつけてぶん殴ってやるから!!」

―本当におめでたい姉様。それが僕だとも知らないで。大好きなこの僕を、ぶん殴ることなどできないだろうに。

「それはそうと、ラミアード陛下にはご挨拶にいかないの? きっと歓迎してくれるよ」

「いけるわけないわよパール。ラミアード陛下には、顔を知られてるもの」

確かに二人は国交を深める宴で何度も顔を合わせたことがあったはずだ。フレイアは隣国の王女としてでなく、あくまでただのパールの家族として扱われることを望んでいるらしい。

なんだ、つまらないとパールは思った。

いきなり国賓級の隣国の王女が現れてその対応に追われ、リュティア救出に力を割けなくなる困ったラミアードを見たかったのに。

「姉様はこれからどうするつもりなの?」

「もちろん、なんとしてでもあなたのそばにいるわ。そのために来たんだもの」

「じゃあ王宮に部屋をもらえるように、僕から陛下に頼んでみる」

「そうね、できれば二名分よろしく! 実はジョルデも来てるから」

―ジョルデ。あの女騎士。あれは少し厄介だ。姉様ほどばかじゃない。

でも、そういう人物を騙すこともまた楽しいではないか。

「わかったよ。じゃあ姉様、まずは王宮の僕の行けるところを案内してあげる。植物園なんてどう? 実は姉様に見せたいものがあるんだ」

リュティアの大切な恩人として遇されているパールは、今現在図書館の管理を任されており、その仕事場である図書館と植物園のみならず、王宮の大部分を一人で自由に散策することが許されていた。

中でも主宮殿の東隣、賓客宮殿の南東の一帯にある植物園はパールの大のお気に入りだ。

―そう、僕は植物が大好きだからね。
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