聖乙女(リル・ファーレ)の叙情詩~奇跡の詩~
二人は連れ立って植物園に出た。山の向こうに消えた夕陽の残照が空を鮮やかに彩り、薄闇が緑にけぶる植物園を優しく包み込もうとしている。

「ほら!!」

パールが得意げに案内したのは一本の木の前だった。

パールの隣で、フレイアは瞳を輝かせた。

「グミの木だわ! 実がなってる! でも…今は冬よね。グミって秋に実をつけるのに」

「変種なんじゃないかと僕は思ってる。ほら、フローテュリアでは、常春の気候なのに、四季折々の花が咲くでしょう。その不思議なからくりのせいで変種になったんじゃないかな」

二人はしばらく黙って真っ赤な実をたわわにつけた風にそよぐグミの木を見上げた。

二人にとってグミは思い出深い木だ。二人の故郷ヴァルラムの植物園にもこの木は数多く植えられており、美しく赤い実をつける秋が来るのが楽しみだった。

こんなこともあったなあ、とパールは昔を思い出す。

番人の使命が重くて、大好きなグミの木の下密かに泣いていたパールを、どんな超能力なのかすぐに察してすっとんできたフレイアが、事情も知らないくせに精一杯慰めようとしてくれた…。

「う~んおいしい!!」

気がつくと隣のフレイアは果実を遠慮なくもぎとり口いっぱいにグミの実を頬張っていた。

―そうだ。あの時も姉様はこうしてグミの実を食べて…

「はい!! パールも!!」

そう、まさしくこんなふうに、果実を自分に差し出したのだ。

パールは目を細めて薄く笑った。

―違うんだよ姉様。僕は心優しいから……

「僕は食べないよ。いたずらに、植物の命を、奪いたくないから」

―そう、それが、僕らしい考え方…。
< 35 / 172 >

この作品をシェア

pagetop