聖乙女(リル・ファーレ)の叙情詩~奇跡の詩~
フレイアは恐怖を感じなかった。ただ目のくらむような怒りを感じた。

「よくも…! よくも私のパールを騙ったわね! 許せないっ!!」

「ハーハッハッ! お前ごときが私を許せなかったとて、なんだという。痛くも痒くもないな」

「言ってなさい!!」

張り詰めた空気がついに弾けた!

自分の声を合図にフレイアは力強く大地を蹴って、ゾディアックに躍りかかっていた。

短剣が闇夜に月光を弾いて一閃、二閃する。

それは普通の相手なら致命傷となるほどの力強く狙い定めた攻撃であったが、手ごたえがなかった。ぶあつい毛を撫でつけただけのようだ。

しかしフレイアは怯まなかった。

彼女は怯むことを知らない。

間合いをとるため後退することもせずに、そのまま次の攻撃を仕掛けた。皮膚の薄そうな脇の下を狙って短剣を鋭く突き立てようとしたのだ。

だがこれも、失敗に終わった。これほどの力をこめたというのに剣は流されその皮膚に突き立たなかった。

至近距離でぶんと空気が鳴り、ゾディアックの拳が打ち下ろされる。

「くっそぉっ!」

フレイアは毒づきながら飛び退ってかわし、低い姿勢をとった。―危ない、すれすれだった!

「いい動きだ。なかなかやるではないか、娘」

ゾディアックの声には悠然と楽しむような響きが感じられた。それがフレイアの神経を逆なでする。フレイアは感情に任せて短剣を一本ゾディアックの目に投げつけた。

「おっと」

ゾディアックが狙われた目の瞼を閉じるだけで、短剣はぶあつい皮膚に弾き飛ばされた。
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