聖乙女(リル・ファーレ)の叙情詩~奇跡の詩~
「教えなさい! 本物のパールはどこなの!?」

フレイアにはすでにこの魔月が今まで向き合ったことのないような強敵であることがわかっていた。こいつが今楽しむためにわざと本気を出していないことも。だからこいつが本気を出す前に、早く決着をつけなければならないと思った。

急所を探して素早く視線を走らせる。そうしながら、先ほど投げた短剣を回収するコースをめまぐるしく計算する。

戦いの場において、彼女の神経は冴えわたる。

しかし彼女が次なる行動を取る前に、――

「では、お遊びはこれくらいにしようか」

ゾディアックがそう呟くと、彼の体からすさまじいまでの殺気が放たれた。

フレイアは何が起こったのかわからなかった。

身構える暇などなかった。

ぐん、と視界に巨体が迫ってきた。

すばやい、と思った。

思った時には、すでに鋭い爪で全身をずたずたに引き裂かれていた。

「うぁぁぁぁぁぁ――――――っ!!」

自分の絶叫がどこか遠くで聞こえた。

フレイアはぬるぬるとしたものの上に倒れた。真っ赤な血の海だ。それが自分の血だと認識した時、フレイアはやばいと思った。

視界が霞んだ。けれどフレイアは、それでも起き上がろうと全身に力を込めた。

「教え、なさい…私の、パールは、どこ……」

しかし頭が上がらない。腕にも力が入らない。

「感謝しろ。お前は面白いから、殺さないでおいてやる」

ゾディアックがフレイアに背を向けたのが、声の聞こえ方でわかった。

「我が居城、闇の城に、お前のかわいい弟がいるかもな? 生きている保障はないがな。ハーハッハッ!!」

そのままゾディアックの笑い声が、遠ざかっていく。

「ま、待ちな、さい…ゼッタイ、助ける…パール、私の、パール……!!」

その自分の声を聞いたのを最後に、フレイアの意識は混沌に飲み込まれた。
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