聖乙女(リル・ファーレ)の叙情詩~奇跡の詩~
しばし面喰らっていた陽雨神は、ふんと鼻を鳴らしながら早口で言う。

「母上が、そばにいたとて、なんになる」

「何にもならないかも知れません。それでもおそばにいます。今の陽雨神様には、きっとそれが必要だから…」

「わけのわからぬことを言うな! さっさと帰れ!」

陽雨神はそう叫ぶと、前のように星を集めて殻のようにし、その中に閉じこもってしまった。

リュティアはかけるべき言葉を探した。殻の中にまでもしも届かなくても、声をかけ続けたいと思ったのだ。
けれど、何を言えばいいだろう。

何を言えば、励ませるのだろう。

―カイなら、なんと言うだろう。

―カイなら……

リュティアはなぜ自分がカイのことばかり考えるのか、その理由にまだ気付いていなかった。

離れてすでに一月以上。こんなに長い間離れることなど今までなかったから、心という土壌の中に隠されていた大切な感情。土壌の中で静かに根を張り広がっていた感情が、距離という風が生まれたことで土を払い、鮮やかに芽吹いたことに、リュティアはいまだ気付いていなかった。

ただひたすらにカイの声を求めて記憶を探り、陽雨神の閉ざされた心を開く魔法の鍵を探してみるのだった。
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