聖乙女(リル・ファーレ)の叙情詩~奇跡の詩~
今、グランディオム王城を見上げるカイの鼓動は早い。

緊張しているのではない。いよいよ真実が明らかになるのを恐れているためだと、体を濡らす冷たい雨に混じって浮かぶ冷や汗の感覚が証明している。

自分の予想が違うと証明したくて、その一心でここまでやってきた。

カイは覚悟を決めると、そろそろと気配を消しながら歩き城の裏手にまわった。この手の城には必ず裏口があるはずだからだ。

勿論、見張りはいるだろうが、少数である可能性が高い。カイの考えは的を射ていた。城の裏口には樋嘴(ガーゴイル)の魔月が二匹いるだけだった。カイは茂みの中に立て膝をついて弓矢を構えると、狙い定めて立て続けに矢を放った。

この弓矢はパールにより聖なる力をこめられたものであるから狙いが外れて腕や脚にあたったとしても効果は抜群だったろう。しかしカイが狙いを外すことはなかった。放たれた矢は寸分たがわず二匹の樋嘴の心臓を打ち抜いていた。

カイはすばやく茂みから飛び出すと、倒れた樋嘴の体を飛び越えて裏口から城内へと忍び込んだ。

黒光りする廊下を走りながら、この城は暗くて、寒くて、孤独だとカイは感じた。

漂う濃密な闇の気配。

暖炉にあたたかな火が燃えることはなく、壁に掛けられていたであろう桜色の花の絵は床に落ちてガラスケースが粉々に割れている。城全体が冷たい魔月の躯のようだ。カイの吐く息だけが白く、生々しく、生命にあふれている。

カイはこの城の主に会うつもりだった。

なぜなら、カイの予想がもしも正しければ、この城の主ライトが、ライトこそが―――…。
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