ビターな彼氏の甘い誘惑
おまけ


ビター



***

お仕事中は、
険しい顔なのです。

***




「・・・だから?」
「はいっ。その、契約内容が・・・」




あっちゃぁ~
不味いときに来たなぁ。



仕事終わりに、
たまたま営業部の前を通ったら

お怒りモードの雅人さん。
うわ。
めっちゃ眉間にしわ寄ってるよぉ。

部長に、はぁ、なんてため息交じりに、
怒られたらプレッシャー半端ないよねぇ。

わかる わかる。

オツキアイしてるのに
たまーに 怒られる時に
ほーんと、心が縮むから。

ちらり、と見てみるけど
思わず 目をそらす。

あの、視線が破壊力半端ないのよね。
それに、ため息交じりに「だから?」とかいうのよねぇ。
罵られるより
単語ひとつで、泣きそうになっちゃう。

この間、同期の香川君とちょっと仕事帰りに飲みに行ってもいいか
と聞いたときの
「なぜ?理由は?」という氷点下の返事は
ちょっとした トラウマよ。
もぅ。あの笑顔が素敵なんだから少しは仕事でも
ニコニコしてればいいのにぃ。


スーツのジャケットを着直してるから
今からまた 外回りにでも行くのかな?
それとも、トラブルかなぁ。
今日は帰り遅いのかな。会いたいけどなぁ・・・
でも、あの 雅人さんに話しかける度胸はありませんっ。

よし、見なかったことにして
そーーっと廊下を横切る。


「あれ?利理さん?」
「お、疲れ様です。津川さん。」

汗だくで手に缶コーヒーをもった津川さんに出会った。

うわぁ。暑そう。
「外はまだ暑いですかぁ?」
「うん。太陽は沈んでるんだけどね。
 あ、飲む?間違えて甘いの買っちゃって。」

「あ、いいんですかー?
 私、甘いの、好きですよ。」

思わず顔が緩む。
コーヒーはブラックも好きだけど
あまーいのも、好き。

「そりゃよかったー、
 今から ナナちゃんとご飯行くんだけど、利理さんも一緒に・・・・
 ひっ!!」

「・・・?」

怯えたように、お疲れ様ですと小さくつぶやく津川さん。

なに?
振り返ると、雅人さん・・じゃなかった、呉羽部長が
私の後ろに仁王立ち。

って、いつの間に?


「・・・津川。報告は?」
「は、はいっ。すぐに、まとめて持ってきます!!」

津川さんはあわてて
立ち去る。

「あれ?怒ってます?」
「・・・なぜそう思う?」

「えっと。眉間のしわ?・・・・あぁ、
 分かりました。」

なーんだ。
言えばいいのに。
疲れてるんだね?

「えっと。はい、どうぞ。」
津川さんからもらった甘いコーヒーを差し出す。
疲れてると甘いのほしくなるよね。
差し出されたコーヒーにびっくりする彼。

「いや、そういうことじゃなくて」

?どういうこと?


「あぁ、開けましょうか?
 ネイルも短いんで 全然 あけれますよ?」

ネイルが長いと作業もしにくいから
私のネイルは短めなの。

ぱしゅっと
空けて、一口 飲む。うん。おいしい。
このメーカーのミルク具合がいいのよね。

あら、思わず飲んじゃった。

飲み口の口紅をぐいっと指でぬぐって
「えっと。はい、どうぞ。」

「・・・・・・。」

ますます、眉間にしわを寄せる。
あれ?違うかった・・・?
やっぱり 飲みかけは ダメ?

「あの、飲んじゃって、ごめんなさい?」

思わず、飲んじゃったんだもの。
新しいの買ってこようかな。

はぁ。と 疲れたようにため息をつかれて
私の手から缶コーヒーが奪われた。
ごくごくーっと一気飲み。

なんだ、やっぱり 飲みたかったんじゃない。

よかったぁ。

「お疲れ様です。部長。
 あまり、無理して怒らないでくださいね?
 ゴミ、捨てておきマース。」

「あぁ、よろしくな?」

利理。

空き缶をポン、と手渡しながら、
小さな声で 名前を呼ばれて ふっと 微笑まれた。


思わず、こちらも微笑みを返す。

あ。そうだ、帰りにおいしいコーヒーを買って帰ろう。
少しでも、彼が癒されるように。

そんなことを思いながら、
まだ熱気が残る街を岐路につくのでした。



***

利理さん、パネェ。
まさかの、部長に間接キス強要?!!

で、なおかつ
笑顔を引き出すって!!!
貴重な
部長の笑顔で 隣の三浦(さっき怒られていたやつ)が
固まってんじゃん。


って、部長が戻ってきた。
心なしか 雰囲気が柔らかい。
よっしゃ、書類のダメ出しも優しい気がする!!
あぁ、ありがとうございます。利理様!!

と、津川君にありがたがられていることは
利理ちゃんは知る由もありません。


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