シーソーゲーム
 アズサの声は聞こえなかった。それはミズキだった。後ろを振り向くと、そこにはアズサの影がなかった。

「おい。アズサはどうした」

「ん…先に行くって」

 そういえばアズサの体調について気になった。整列する時にアズサは見かけたが、俺とは目を合わせようとはせず、隣のクラスの女子と話していた。まるでその辺に落ちている石ころのように気にしていないようだった。

 試合のグラウンドへ赴く前に、グランドに通じる階段前に立ててある掲示板を見に行った。そこに今日の日程があるのだ。

「ほぉ…初戦は運悪く嵯峨野とか…」

「そうみたいだな。それよりさ、お前…アズサと喧嘩でもしてんのか」

「え…」

 どうやら気付いていたことを察していて、あえて気付いていないフリをしているようだった。俺も気付かないとは、まだこいつとはまともに向き合えていないような気がしてきた。

「まあな。昨日、ちょっとな」

「俺も見てたぜ。お前、昔からよく人のことを考えるからな。あの時怒った気持ちは分かるけどよ、やりたいて言ってんだからいいんじゃねえの。勝手に突っ走るのもあいつのいいところだしさ」

「でもさ、あいつはプライドってもんを知らないのか」

「まあ、もしかしたらないかもしれないな。下手すると知らないで生きてきたのかもな」

「お前にはそう見えるか。俺には必死こいて生きてきたって感じがするけどな」

「お前…いや、後はお前らのことだよな。そうか。なら、もう言わない」

 その時思った。こいつも神からの使者なのか、と。そう思ったのは今まであまりに身近にいる連中だったからだ。神の意志で集められたという言葉も気にし始めていた。どこかで三人の言うことを信じ始めている自分に気付いた。心のスイッチが変わって何かが稼動し始めている。それが何かはこれから突き止めるつもりだ。
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