シーソーゲーム
 回と回の合間の攻守交替で、嵯峨野は言った。

「アズサってあんなにいい体型だったか」

 やはりそうだ。こいつらも全員して魅せられていたようだ。

 俺のことではないが、アズサのことでも許せなかった。しかし見るなとは言えない。その理由は誰でも分かるだろう。やはり幼馴染だからこそ言ってやりたい。アズサに言う決心をした。

 ベンチに戻り、氷野がバッターボックスに入った時、アズサは一人で離れたベンチ端に座っていた。俺はアズサの横に座った。

「お前、ピッチャー交代しろ」

 アズサは俺が座った時、不審で不思議そうに俺を見た。俺の言葉に少々とどまったようだ。突然のことに予期できなかったのか、何も言えなかったようだ。

「お前にもプライドがあるだろ。これ以上投げ続けたら、お前が汚れるだけだぞ」

 きょとんとした表情でアズサは聞いていた。俺の話が理解できないのか、もしくは理解をしたくないのか。自分で投げて、何か目標でも達成させたいのか。

「何言ってんの?ちゃんと点も取られないで抑えてるし、それに、まだヒットも打たれてないよ」

「試合で勝つだなんてどうでもいい。お前のためを思って言ってんだ」

「何、それ…あんたで抑えられんの?」

「だからそういうことじゃなくて…」

「だったら何なの?意味分かんない。はっきりしなさいよ」

「つまりだな。もっと女としての自覚を持てと言ってんだ。やりたいことをやるってのは確かに実行力があるって言うことだけは評価できる。だがな、それは諸刃の刃だってことを覚えておけ。血迷ってやるのと、分別と自分を知ってからやりたいことをやるのとではまったく違う。考えてやりたいことをやっても遅くないだろ。我慢できないものでもないだろ。今しかできないことでもないだろ…」

「今しかできないのよ」

 アズサは立ち上がり、俺から離れたところに座った。ベンチとグランドと相手ベンチから強い視線を感じた。完璧に見られていたようだった。

 俺は急に恥ずかしくなってうつむいた。そして時々アズサのほうの様子をうかがった。アズサもまたうつむいたまま、ピクリとも動かなかった。
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