シーソーゲーム
 ランナーは二塁に達し、ノーアウト二塁のピンチを迎えた。しかし皆はさっきの静寂とは違い、互いに声を掛け合うようになった。

 それに応えようと、俺はボールを握り締めた。

 そのおかげなのか、次のバッターはサードフライだった。だが、次のバッターは粘られて、フォアボールで出してしまった。次のバッターはボテボテのファーストゴロ。その間にランナーは一つずつ進塁した。そしてラストバッターとなるバッターは、ふらふらと上がるライトフライを打ち上げた。

 よし、と拳を握り締めたが、思い出した時には堕落に変わっていた。ライトは岸だ。

 岸は相変わらずの千鳥足で、どこが落下地点なのか、分かっていなかったようだ。そして虚しきかな。ボールは大きなバウンドをした。しかしセンターの小海はカバーに回っており、すぐに捕って、中継のミズキに投げ返したが、ランナーは二人とも生還していた。

 グランド内で小さなため息がこだましている。岸はいづらそうだった。小海は励ましてポジションに戻ったが、岸はすっかり落ち込んでいた。

 まだピンチは続くもの、今度はピッチャー返し。俺はグローブに当てるだけで精一杯だった。

 ランナーは一、三塁。ピンチは続く。ピンチはチャンスという言葉があるが、どんな意味がチャンスなのか分からない。

 ラストバッターにレフトへのクリーンヒットを打たれ、ついに逆転された。

 掛け声は止まないが、さっきのため息は続いていた。掛け声で聞こえづらいのがなんとも心にとげを刺すようだ。

 この回はこれで終わったものの、逆転されてしまった。

 皆が岸に声をかけるものの、やはり白々しい目で迎えるベンチがあった。俺も励まそうとしたが、励ますための言葉が見つからなかった。

 とりあえず、一人空けて岸の隣に座った。言葉を探した。自分の少ないボキャブラリーがここでこんな墓穴を掘るとは思いもしなかった。

 金属音の快音が聞こえた。アズサが打った。きれいなセンター返しだった。

 アズサはベース上でガッツポーズをした。

 岸は顔を上げて、切ない顔で言った。今にも泣きそうな顔だ。

「いいな…野球が上手くて…」
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