シーソーゲーム
 その言葉を聞いた時、言うべき言葉がないのが恥ずかしく思えた。普通なら返す必要はない。だが言わねばという気持ちがあった。ふがいなさが逆転された俺をさらに追い込んだ。

 また快音が鳴り、だがショート真正面のライナーを取られた。真芯で捉えたからしょうがない。守備位置というのは統計上、一番ボールが来る場所に並べられているそうだ。それに真芯で当たった時のボールは大抵、守備の正面だと決まっている。

 ミズキは悔しそうに戻ってきた。

 次のバッター澁は、立つだけでバットは振らない。ここまで全打席を三振となっている。しかし今回は違った。打つとこれもまたきれいなセンター前のヒット。チャンスを作った。

 もしかしたら、もしかしたらと皆、ベンチを立った。

 次は波和。ここで打ってくれれば、サヨナラのチャンスができる。だが、狙った初球はセカンドゲッツー。ショートに嵯峨野がいたのがこの試合を終止符を打たせたのかもしれない。

 ため息がベンチに流れた。もしかしたらと思って上手くいくことなんて、そんなに多くはない。

 挨拶をして、試合は終わった。今日の試合はこれで終わりだった。

「惜しかったな。ま、俺の手にかかりゃ、こんなもんだけど」

 試合後、嵯峨野は俺に話しかけてきた。

「だけどよ。お前がピッチャーやり始めた時は正直驚いたぜ。まさか本当にやるとはさ」

 俺だって驚いている。まさかアズサのほうが折れるとは思ってもいなかった。このまま試合は勝ってしまうのかとさえ思っていた。しかしそれは何も変わらない面白くない試合だっただろうと思う。だが今日の試合は楽しかった。今までの中で一番だ。負けたが、新鮮で、何か手に入るもがあった。

「これからもう休めるからよかったよ。負けて」

「それが狙いだったのか。それにしちゃ、点取らせてくれなかったけどな。しかも、抑えてる時はお前、ガッツポーズをしてたけどな」

「今年のアカデミー賞主演男優賞、狙えるだろうな」

「何言ってんだお前」

 試合は終わった。無性に悲しかった。しかしその試合後は、何でもできるような気がした。こうやって話しているのが悲しみの反面、心が温まり、一番に楽しかった。

「まあなんだ。これからの試合、ガンバレよ。じゃあな」
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