シーソーゲーム
 教室に戻る途中、ミズキは俺の明日の予定について、聞こうとはしなかった。その代わりとして気持ち悪い笑みを浮かべて、俺に誘導尋問的なことをして、俺の口からすべてを吐かせようとしている。もう分かっているくせに。

 そういう攻撃があっても、俺は吐かなかった。これは絶対に秘密だ。ミズキが知っているなんて、関係ない。これは俺のけじめであった。

 教室に入り、小海と氷野に会った。だがもう着替えていて、帰るところだった。

「お、遅かったな」

「もう帰りか。早いな。気をつけて帰れや」

「ああ、お前らもな。じゃあな」

「ああ、じゃあな」

「リョウも、じゃあな」

「…ああ、じゃあな」

 どうやら前よりかは小海と氷野に対する恐怖の癖が薄くなっていたようだった。これから付き合っていく一年間の中で、会うたびに逃げる自分を想像すると、そんなことはできないと思った。

 二人が去ってから、俺たちも早々と着替えた。まだ教室に多く残っているクラスメイトらはしばらく帰らない様子で話していて、俺たちが最後になるとは思えなかった。だが、堰を切ったように教室からどっと出て行った。何かあるのだろうか。

 教室に二人だけが残った。

 着替え終わったミズキはいかにも不思議そうに教室のドアを見た。

「帰ろうぜ…それにしても、どうしたんだろうな、いきなり」

 理由なんて分からない。突然のことだったから。それにしても、なぜあのように忽然と集団で出て行ってしまったのだろうか。

「帰ろうか」

 教室を後にして昇降口まで、誰とも会わなかった。足音も、物音も、遠くで鳴く鳥の鳴き声や風のすさぶ音さえも聞こえなかった。閑静で、静寂で、まるでゴーストタウンの寂れたマンションにいるかのような、そんな気さえさせた。

 校門を出るまで、何も会わず、何も聞こえなかった。

「何か…不気味だな」

 校門を出れば、車は通る。人がいる。店は開いている。それは当然のことだ。だが、道には車が止まり、人は見かけなかった。店は確かに開いているのだが、電気がついていなく、開いているのか分からなかった。

 こんな時、澁がいればと澁の言葉を真に受けない俺なのに、助けを乞う自分が渋の信者になりかけていることを発見している自分に微笑んでしまった。
< 187 / 214 >

この作品をシェア

pagetop