シーソーゲーム
 そういえば岸の私服を見るのはこれが初めてだ。普通の年頃相応の女の子の可愛らしい服装だった。化粧もせず、ピアスなぞもせず、あるままの自分を見せていた。

 岸はいつも見せる笑顔で、しかしいつも以上に楽しそうに話す。どうしても話したいと、声や態度はまっすぐ俺を見ていた。

「リョウ君。今日はどうする?」

「岸さんに任せるけど」

「…うん。そだね。じゃ、あっちに着くまで、お互いに考えましょ」

 すると岸はその会話を境目に、急に元気がなくなったように意気消沈とした。

 俺としては少し話が過ぎたと思っていたのでちょうど良かった。だがこの急な感情変化は気になった。

 電車は止まり、駅に降りると、改札口に向かう途中、通路に何枚も張ってあるポスターを目にした。

「…映画、か」

 ただ呟いただけだった。しかし地獄耳か、岸には聞こえていた。本当に小さな声で、かすれたように、まさか聞こえないと思っていた。

「映画…いいね。行こう」

 岸に手を握られ、引っ張られる。

 胸がかっと熱くなる。なんだろう、この感覚。この気持ち。この暑さ。アズサに引っ張り回されているのは昔から今に至って同じことだが、こんなことはいつだってない。アズサに手を握られて、先導されて、またこれか、と。しかしこの手は何だろうか。柔らかい。それに、温かい。そしてその手に巡る血液が俺の手に伝わってくるかのように、岸の鼓動が感じられる。微動だが、その流血は感じる。

 岸に釣られるまま、岸の歩調に同調する。ただただ歩き続ける。岸の背中を追うようにして、それしか見れない。いやそれしか見ていない。ずんずんと進む岸。ひしひしと重なる手から不思議な力、まだ見ぬ感覚を感じ取りながら岸についていく。

「リョウ君…どうしたの?」

 いつの間にか鼓動が速くなっていた。自分でも気付かなかった。あまりに夢中であった。それに気付いた岸は不安そうにこちらの顔をうかがっていた。
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