シーソーゲーム
「いや、別に…」

「だったら何を観る?」

 劇場前に上映作品のポスターが張ってある。アクションから恋愛、ホラー、コメディまであった。そういえば映画に来るのは何年ぶりだろうか。映画は嫌いではない。だが今まで観たいと思うものはなかったのだ。そして今も同じである。そうなると、俺の好きな映画のジャンルを疑ってしまう。何が好きなのだろうか。

「いや…俺はなんでもいいよ。岸さんが選んでよ」

「…そう…じゃあ、あれでいい」

 そう言って指した指の先には恋愛映画のポスターがあった。

 それを見た時、俺は一歩退いた。岸はこういうのが好きなのか。俺は比較的恋愛ものは観ないし、本さえも読まない。だってそんなものを観たって読んだってしょうがない。何が楽しいのか分からない。しかもこの年齢で、まして彼氏彼女でもないのに男女二人きりで恋愛映画だなんて、岸は何を考えているのだろうか。だが俺は引くことができない。俺は何も要望さえも伝えずに岸に好きなものを、と言ったのだから。

「あ…もう時間になっちゃう。早く入ろう」

「あ…ああ」

 チケット売り場では販売員が不敵な笑みを浮かべて次々とチケットを売りさばいていた。そして俺たちが買う時、何を観察しているのか、ちらちらとこちらを見てチケットを渡す時となれば、強い眼差しで見られた。

 やはり劇場内は混んでいる。休みの日にこんなところに来るものではない。実際にその込み合いに遭って、岸は他人にぶつかり俺の胸に飛び込んできた。

 するとどうだろうか。またあの時と同じ。

 俺はどうしようもすることができず、岸が離れるのを待った。だが岸はなかなか離れようとはしない。劇場に入るこの通路で周りは客が多いし、確かにこのままでいれば迷惑ではないのだが、俺にとっては迷惑だった。そのまま劇場に入るのを待つ客と一緒に止まったまま、岸も動かない。
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