シーソーゲーム
 客からの熱もそうだが、一番熱く感じられたのは岸からの圧力などではなく、それを感じ自分が火照っている気持ちが暑かった。胸に熱い火のようなものが燃え立て、肺が紐で縛られるような心地だった。

 しばらくして列は流れ始めた。しかし岸はまだこのままでいようとしたので、俺は岸の肩に手を当てて、そっと自分から離した。

 今まで息さえもしていなかったようで、ようやくこのむさ苦しい空気を吸って体に新鮮を取り込むことができた。ヒートアイランドのようにこもった熱が放出する。

 岸は背を向け、俺の前を歩き出した。俺はついていく。

 劇場の指定席に座る。真ん中の席ではない。その中の席が後ろまで連なり、その両サイドに二人しか座れない席がある。そこに座ることになっていた。岸が提案していた。他人が隣に座るのは嫌なそうだ。それは誰だって同じことだろうと思う。

 席に座り、劇場が始まる前に何か買ってこようかと尋ねたが、岸は拒んだ。

 そのまま劇場は人がいっぱいになり、すぐに暗くなると、スクリーンのカーテンが開いた。ブザーが鳴り、映像がスクリーンに映し出される。

 恋愛なんて、人はなぜ面白いと思うのだろうか。人の恋愛は見てると面白い。だが見られているのは嫌。そんな人がいる。俺には信じられない実態で、考えられない事物で、だから岸も不思議な人として捕らえていた。ミズキはそんなやつではないと思う。アズサもそうだと信じたい。そうであるならばいつまでも末永く気のよい、安心して互いに暴露話ができると思えた。またいつかどこかの未来で、互いにまったく知らない配偶者がいて、そして居酒屋かどこかで大声で騒ぎ、昔を語り合うのだろうな、と。

 恋愛を知っているからといって、恋愛が上手く進むことなんてない。そんなプロか変態がいるならば一度でいいからお目にうかがいたいと思うね。だって不思議に思わないか。ただ映像と文字と、それらの経験でことが赤子の手をひねるように進むわけがない。唯一、テストの点だけがよくなる。それだけだ。

 時々岸の様子が気になってちらちらと向いてしまうのだが、岸の目は真剣そのもので、俺には到底そのような感情で見ることができない。何度か見ると、岸と目があった。岸もまた、俺のほうを見ていた。岸は笑いかけるが、俺は分が悪くなって目を背けてしまう。
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