シーソーゲーム
 俺は情けない返事をした。

 そして岸は背を向け、ゆっくりと自分の家の方角に向かって歩き出す。その背中を目で追って、その視点は寸分の狂いもなく、岸をとらえていた。しかし俺の心に残るもやもや。これは何か。何なのか。心は何を伝えたいのか。これではいけない。名残惜しい。そういうものではなく、違う感情。とにかくこれではいけないような気がした。

「岸さん」

 岸はピクッと反応して止まったが、振り返りもせずにまた歩き始めた。

「なあ。ちょっと話があるんだ」

 ついに岸の足が止まる。そして髪を振るうようにして俺のほうを見た。

「何?」

「いや…その…とにかく、これじゃ、いけないような気がして」

「それで、何が言いたいの?」

 自分でも何を言っているのか分からない。それは不確かだ。だがこれではいけない。こんな、一方的に終わる一日なんて、だめだ。それに、分からない。なぜこうなったのかを。俺はこれを聞きたい。もし自分に非があるならば、教えてほしい。それで俺はそれを改善したいと思う。そう思う。その心は確かだ。

 まだ夕暮れではないし、だが日はそう高くない。

 岸は思いつめた表情になっていた。そしてしばらく考えていた。

「うん。いいよ」

 声は強張っていた。顔も強かった。俺は岸の眼差しに圧倒されていた。

 しかしこの後はどうするか。話そうという気はあったのだが、どう切り出すか、どこで話すかなど、それは決めることができなかった。誘ったからにはその自分の義理に応えねばならない。目的もなく、話すことも不明確のままで誘ったのは、それは単なる馬鹿者でしかならない。

「…ここで話すのは嫌だな」

 とりあえず、誰もいないところへ移動しようと思った。それなのは、周囲の目が俺たちを見ているような気がしてならなかったからだ。

「あそこ、行くか」
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