シーソーゲーム
 その時はまだ行くか行かないか、決めていなかった。宛てはあったのだが、そこがもし誰もいなかったら、と言う話だ。そうであれば、好都合な場所だ。しかし人がいたらどうしようか。そうなればすぐにまた変えればいいのだろうが、岸は途中で帰るなぞと言わないか。そうなったらそうなったらで、その時考えればいい。

 俺は岸を引き連れて、家とは逆の方角に向かった。自転車を押して、坂を上った。岸と共に歩いている。隣にいる。これはまだ、デートが続いているのか。

 やはり閉鎖されている門を目前にして、中は誰もいないことを確認した。しかしカギのかかった校門をどうやって開けるか。ここを越えれば不法侵入になる。無理矢理開けても同じことだ。それにしても、困ったことになった。起こってはならない状況が起こってしまった。

 ああ、どうしようか。迷いを掻き消すことはできず、岸に表情として見られてしまっていたことに俺は気が付かなかった。

「それで、話って?」

 岸は変わらぬ面立ちだったが、声は前より恐ろしく感じられた。

 すると気付いたのだが、わざわざこの学校の敷地内で話す必要はなく感じられた。ここでも十分静かで、何と言っても人がいなければ、人の気配さえも感じられない。そうしてここで話すことに決めた。

「あのさ。今日、岸さん、怒ってるみたいだから」

「何?それ。わざわざここまで来て言うこと?駅前でもいいじゃない」

 岸は突如怒り出した。昨日の岸はいない。昨日の岸は誰だったのだろうか。いつもの岸もいない。こんな一面も岸には隠されていたのだろうか。

「でも…誰かに見られたら、嫌じゃん」

「何が悪いの?別に見られたっていいじゃない」

 俺が言いたいのはクラスの連中に見かけられたら、ややこしくなると言うこと。だがそれは俺が話したいと思ったことの核心ではなかった。

「それより…なんで今日は怒ったんだ?岸さん。俺には分からない」

 岸は目尻をピクッとさせ、眉毛を吊り上げた。

「ほら、また言う…」

 すっかり狼のように吊り上った目を俺に目を合わせないようにしていたが、瞳はこちらを睨んでいるような気がした。そして堪りに堪っていたのか、爆発させたように言う。
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