シーソーゲーム
 涙をぬぐい、また俺に背を向けて、足を引きずるようにして俺から離れていく。一歩、また一歩、俺から離れてゆく。その背中は俺の動きを制圧しており、追いかけることさえできなかった。彼女のそばに行って、励ましてやりたかった。

 その姿が逆光で見えなくなろうとしていたその時、脳は揺れるようにして、彼女の姿が目に焼きつくようにはっきりと見えた。

「ルイさん…」

 彼女に聞こえたのだろうか。自分には声が小さすぎると思っていた。だが彼女は足を止めて振り向いて、わずかながら唇を動かしていた。目は必死に訴えていた。

 岸は唇を止めると、進行方向をこちらに変えて近づいてきた。そして言うことはすべて霞むように、聞こえづらかった。

「リョウ君…なんて…?」

 ルイは真偽を尋ねるかのように、疑わしく、だがその裏には何か隠されていた。

「いや…ルイさん、て…」

 するとその言葉を聞いた岸は顔を急に緩め、何だか知らない空気の塊を吐き出し、一度空を仰いで息を吸い、俺を見直してから踏ん反り返るようにして言った。

「…もう…なんでさん付けなのかな…私だって…恥ずかしいんだから…」

 見る限り、明らか照れていた。話していながら直視せず、ちらちらと見るだけで、話そうにも、いと話しづらそうだった。

 するとその岸の心境の表れなのだろうか。

「…バカ」

 岸という人間はクスクス笑った。やはり笑顔のほうが似合う。それ以外の何も似合わない。受け付けていない。今までの、最高の笑顔を見せてくれた。

 ようやく終着したとホッと腕をなでおろす思いでいた。そこまでたどり着けたのは、最後は岸の笑顔だったか。これからも、ルイさんって呼んでやるか。

 夕陽は沈んできた。早く帰らねば夜になる。

「早く、帰ろうか」

「そうね…」

 そうして俺たちはやっと校門前から離れることができた。そして時々互いの事をみてしまい、目があったら伏せる。それを繰り返していた。周囲の人から見れば、彼氏彼女の関係であるかのように見えただろう。

 そのような状況で長い道のりを歩いてきたわけだが、岸は踏み切りの角を曲がろうとしていた。ここをまっすぐ行けば、彼女の住む家があるのだろう。

「ついてくる?」
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