シーソーゲーム
 自分の席に座る。周囲の目が気になる。そして岸もちらちらと見る。どういうわけか、あれほど俺とアズサのことが気になっていたミズキは質問をしない。ここにいることが気持ち悪かった。

 アズサとも話さないし、話しかけてくる気配も無い。

 今日ほど何も話さなかった日は無かった。緊張して、顔が強張っていたと思う。

 クラスの連中とも話さないわ、岸とも言葉を交わさなかったわ、帰りも話す題材、また話されることは無かった。ミズキがいなくなり、二人で歩いていると、誰も見ていないのに、誰もいないのに周囲の目が気になった。そして長い道を歩いて別れることになった。もちろん俺の家の前で。

「じゃあね…」

 今日二度目の言葉。それが今日最後の言葉でもあった。

 俺はアズサを見届けずにすぐに家の中に入った。

「おはよう…」

「じゃあね…」

 この言葉が延々と繰り返される日々が続くと思った。それはあれから二、三日続いたからだ。だが時間は俺たちの心を癒していく。いつも帰って寝る前にベッドの中でアズサのことを思い返して、どうすれば仲を取り留めることができるか。だが暴発したように言ったアズサの言葉。その言葉を無かったことにするのはアズサにとってどんなに苦しいことか。搾り出して言った。そのように思えた。

 しかしアズサはそのことをまったく無しにしているかのように、その日は二言が三言となり、次の日には三言が四言になっていた。時間がそうしてくれる。しかしこれでいいのか。未だに心の中のもやもやを吹っ切れないでいる。

 しかしせっかくアズサが話しかけてくれるわけなのだから、俺もそれに応えるべきである。まあ、少しは話したいと思っていたのだが。

 それ以降、俺の一時的に塞いでいた心も元に戻りつつあった。クラスの連中とはいくらでも話せるし、もちろんミズキとだって話せる。だが岸とはどうも話しにくい。岸と二人で話したことが理由ではなく、アズサに好きだよ、と言われたあの日からだ。それはアズサに対して話しづらいというわけではなく、その真核は岸に突きつけられていた。

 その心はどこにあるのか。これはいよいよ自分がどう考えているのか固まってきているのだろうか。それとも心の隅にある埃にかぶった偶像が動き出したのか。
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