シーソーゲーム
 岸は俺を見ていた。今にも泣きじゃくり崩れそうな、それほど顔はしわくちゃだった。その裏に恐怖がこめられているのも分かる。

 すると岸の体から光が見えた。発光しているのではなく、体から散るようにして光は岸を離れて空に舞い上がる。美しい光だ。

 何だ。この光景。俺は夢でも見ているのか。

 岸はすっかり衰弱したように怯えていた。

 俺は岸に近付き、その様子を近くで見ようと思った。ただ好奇心なんかで近付いたわけではない。

「リョウ…クン…」

 どうすればいいのか分からない。どうやらその光は岸の体らしい。その証明に岸の体は半分が消えようとしていた。

 上半身だけ残った岸。どうすることもできない俺。岸は最期の生きる力を振り絞ったかのように言う。

「リョウクン…私…好きだった…」

 これが岸の言いたいことなのか。これが、本当に、岸なのか。

 何だ、これは。これは現実なのか。事実なのか。リアルな世界なのか。夢ではないのか。信じたくない。これは、嘘だ。絶対違う。人が消えるなんてこと、ない。絶対ありえない。こんなの現実であってたまるか。現実でない。絶対ない。そんなことない。

「リョウクン…私、楽しかったよ…じゃ…」

 何が、じゃ、だ。岸はこのまま消えるのか。消えるのは死ぬことなのか。岸は、死ぬのか。これは一体、何なんだ。俺はただ、ゴミを捨てに来ただけのはずだ。なぜ。俺は、何を見ている。俺の目に、何が映っている。事実なのか。

 意思とは反逆に、みるみる岸は消えていった。悲しみという感情ではなく、無情だ。生きている心地がしない。足がまるで棒のようになってしまったように、今すぐにでも座りこみたかった。

 見れば消える。次の瞬間、心にその文字が刻まれ、生まれた。

 一度瞬きをする。だが前よりも消え、今もなお消えていく。

 次に一度、しっかりつむって、しばらくしてから目を開ける。しかしもう、消えていた。いや、いなかった。どこか行ったのでは。走って行ったのでは。だが音などはしなかった。俺の横を駆け抜けたわけでもない。
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