シーソーゲーム
「いや…やっぱり、いないな。お前は?」

 その時、私は足元から崩れたような気がした。心が空っぽになった。不思議だ。私は告白さえもしていないのに。

「おい、聞いてるか?」

「ん?え…私もいないよ。うん」

「そうか。でも、お前に気があるやつなんて、山ほどいるぞ。男を選ぶ時は、しっかり見極めろよ」

 さっきの私のセリフ、自分に嘘をついたようで、私は自分のことが嫌になった。

「うん、そうする。ありがと、今日は。帰ろ」

 リョウの家の前で別れ、私は、一人で家に帰った。

 ドアを開け、誰もいないマンションの一室に入る。

「ただいま…」

 訳あって、今は家族は遠くに離れて暮らしている。だから今は一人暮らし。一人で家事洗濯料理など、何でもこなしている。

 ソファーに座り、そのまま倒れこんだ。

 すると、目から名もなき涙がほろほろと溢れ出してくるのであった。

「何でだろう?何でこんなに悲しいんだろう…」

 負けたような気がした。私に、気持ちに、リョウに。幼い頃から好きだった。リョウのことが。しかしそれは好感に過ぎなかった。意識し始めたのが中三になってから。ある女子がリョウに告白している瞬間を見た時、腹立たしく、悲しく、切なかった。今まで感じたことがなかった。その帰り、振ったことを知った私は嬉しかった。その時、私はなぜそんな気持ちでいるのか考えた。一睡もせず、純粋な気持ちで考えた。それは気付かない方がよかったかもしれない。考えない方がよかったかもしれない。私は次の日から、しばらく面と向かって話すことができなかった。

 もう夕飯を作らなきゃいけない時間なのだが、今日は冷蔵庫にあるヨーグルトで済ませようと思う。それに食パンと牛乳も。

「もう…だめだ」

 クッションに頭を埋めて、さらにその上からクッションをかぶせた。

「何で何で何で何で何で?何で?」

 もう考えるのはやめにしたが、もうリョウとは顔を合わせたくなかった。

 初めて会ったあの時。運命を感じた。その時はそんな言葉、知らなかったが、そのような感じがした。気持ちが震えた。具体的に言えばそうだろう。

「もう…いや…」

 私はこれからどうすればいいのか。また考えることになった。中三以来だった。
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