I love you に代わる言葉
 おねーさんの言葉を否定したボクの言葉に、それは明らかに賛同する言葉である筈なのに、何故賛同している様に聞こえないのだろう。だけど否定されてもいないんだ。理解出来なくて表情が険しくなる。あまりにも穏やかな口調だからだろうか。平気で否定の言葉を吐くボクを、穏やかに肯定する。変な女。変わった女。……不思議な女。
「パワーを持つというのは、昔からそう言われてきた事なんですよ。石一つ一つに意味があるんです。――例えば、」
 おねーさんはカウンター横にある木棚の引き出しを開けて、何やら石を取り出した。白く綺麗な手にそっと乗せて、それをボクに見せてきた。人指程の大きさ、透明で氷の様なそれ。
「これ知ってる。水晶でしょ」
「はい。水晶の原石です。――水晶は、浄化、開運、願望成就、魔除けなどの意味を持ちます。水晶を持ったからと言ってそれらの効果を感じられるのかは解りません。目に見えないから肯定も否定も出来ません。ただ、水晶は確かにその意味を持つんですよ」
「ああ、成る程ね。それを信じるか信じないかはあなた次第――ってやつ?」
「ふふ、そういう事です」
 そう言っておねーさんはにっこりと笑った。壊れ物を扱うみたいに(実際壊れるものだけど)水晶を持ち、元あった場所に戻す。その動作を黙って見ていた。
 仕舞い終えると、おねーさんはこちらに向き直った。ボクを見る目に濁りなんか無くて。何て澄んだ目なんだと思った。汚れた世界を見た事はないのか。見た事ない筈はない。年齢は二十を越えているだろう。
 おねーさんは優しい目を向けて徐に口を開く。そう、優しいと思った。優しさなんて、知らない筈なのに。
「石――鉱物というのは、自然、世界の神秘と美しさが凝縮され形となったものだと、私は思います。色味や形はどうであれ、その美しさに魅せられた方は引き寄せられ購入に至ります。高尚な趣味をお持ちのご老人にも人気があるんですよ」
 それはもう、綺麗に笑った。
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