愛してもいいですか



そんなモヤモヤとした気持ちを抱え、仕事を終えたその日の夜。二十時を過ぎ、帰路へつく人々のなかで、私の姿は松嶋さんの会社からほど近い小さなカフェの一席にあった。



「ホットのカフェモカでございます」



黒いエプロンをした若い女性店員が白いカップを置きその場を立ち去ると、そこには私一人が残される。

小さなカフェの二階席。この時間のせいか、ひと気のない静かな店内にはクラシックの音楽が微かに流れ心地良い。

するとほどなくして、聞こえてくるのは階段を登る革靴の音。



「宝井さん」



それは案の定松嶋さんだったらしく、待ち合わせの時間より五分遅れて目の前に現れた彼は、今日もネクタイをきちんと締めた茶色いスーツを着て、垂れた目を細めて笑う。



「あ……松嶋さん、こんばんは」

「すみません、少し遅れて。なかなか仕事が切り上げられなくて」

「いいえ、大丈夫ですよ。何か飲みます?」

「はい、先に下で頼んできました」



私の向かいの席に座る松嶋さんは、いたっていつも通りの様子だ。だけど、きちんと話さなきゃ。そう決めて息をひとつ吸い込んだ。


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