愛してもいいですか
「松嶋さんは優しくて誠実で、すごく理想的な人で……でも私は、きっと松嶋さんの理想にはなれません。仕事が好き、その気持ちを大切にしてくれる人と、一緒になりたいと思うんです」
私は、一人の女性であり、社員を抱える社長。だからこそきっと、彼の理想にはなれない。
安心感だけでは、そばにはいられないから。
迷いなく言った私に、松嶋さんは湯気のたつコーヒーをブラックのまま一口飲む。
「……前にも言ったんですけど、俺は、宝井さんに一人の女性として惹かれてました」
「……えぇ」
「多分、一目惚れ。あのパーティの時に、ぶつかって、その瞬間に惹かれてました。話をして、知れば知るほど気が強い反面可愛い人だとも思って。宝井さんの気持ちを確かめたくて、仕事か自分か選んでもらいたくて、あんな言い方をしたんです。もちろん、家庭に入ってもらいたいのも本当ですけど」
『結婚したら出来れば家庭を優先して仕事も辞めてほしい』
惹かれている、そう感じてくれる彼が、私の気持ちを確かめるために、言った言葉。
仕事か、彼か。問い詰められて私が出した答えは、結局こうだったわけだ。
「でもやっぱり、あの日宝井さんの選んだものが宝井さんの答えなんだと思います」
私自身が、選んだもの。