STOP
第9話
Bチームは2年生ながらチームの要、トップ下の松永がゲームを組み立てた。
ゴールキーパーも2年生で、185センチの長身、金井。
ディフェンスで攻撃にも参加するリベロの和人。
そしてキャプテン清水のほかに1年生が3人いた。
総合力では、明らかにCチームに勝っていたし、最初の5分間はほとんどボールを支配していた。
英はというと、なんとかパスカットしようと走り回っていたが、Bチームに思うようにボールを回され、荒い息を吐いている。
そしてついに清水のボレーシュートが決まった。
「ようし、この調子であと2点取るぞ。」
「清水さん、ハットトリック狙ってください。どんどんパス出しますから。」
松永の声に、すぐに英が反応した。
「おい松永、調子に乗るなよ。ゲームはこれからだ。」

英はそう言うと、Cチームのメンバーに何やら指示をし始めた。
「ポジションを変えるぞ。おれがセンターバックをやる。みんなはおれがボールを持ったらすぐに攻撃に切り替えてくれ。加藤はもっと左に寄って、勝本は…。」
それを聞いて清水が和人に耳打ちした。
「おいおい、向こうは英がディフェンスをやるらしいぞ。かなり走っていたからな、疲れたんだ。こりゃあますます点が入りそうだ。」
「でも英がディフェンスやるってのはめずらしいな。何か考えがあるのかも。」
「ないって。さあ、ガンガン攻めるぞ。」
清水はそう言うとキックオフのボールにプレッシャーをかけに行った。
相手のパスが英に渡る。
「森田、走れ!」
英は相手ゴールに向かってボールを強く蹴った。
3年生で俊足の森田が、ボールに追いつく。
マークするのは和人だ。
「勝本、フォローだ。加藤はもっと右に。」
英がてきぱきと指示すると、Cチームのボールがつながり出した。
「今だ、来い。」
英がボールを持った選手と交差するように後ろから走ってきてパスをもらった。
スクリーンプレー。
英に和人が詰める。
1対1。
英がフェイントをかけてきた。
ボールをまたぐ。1回、もう1回。
必死に食らいつく和人。
そして英がボールを左にけり出す。
和人も反応する。

反応したはずだった。
だが英はボールと一緒に和人の右側(和人にとっては左側)を抜けて行った。
― 鮮やかなフェイント。
完全に置き去りにされた和人の目に、英がキーパーをかわしシュートを決める姿が映った。
(何だ今のフェイントは!こんなの今まで見たことがないぞ。まるでボールが消えたみたいだ。)
和人は悔しいというよりあっけにとられていた。
そして思わず「すげぇ…」とつぶやいた。

「やられたな和人、次は止めてくれよ。」
清水が駈け寄ってきて言った。
「いや、無理だ。俺一人では止められない。それにあいつ…。」
「大丈夫だって、それにもう英にフリーで持たせないよ。」
清水はそういうとボールをつかみセンターサークルにかけて行った。
(そうじゃない。フェイントは確かにすごかったけど、同じくらいに状況判断がすごい。)
和人はそう思ったが、口には出さなかった。
この後のプレーで英がそれを皆に思い知らせるにちがいないと思ったからだ。

だが、和人の考えは当たらなかった。
英の足が両足ともつり始めたのだ。

あっけなく勝負は決した。
大黒柱を亡くしたCチームは、次々に得点を許してしまう。
終わってみれば5対1。
清水が3点、松永が1点、そして和人も1点入れた。
「ま、ほかのチームにはちょっと気の毒だったな。俺らが強すぎた。」
清水は誇らしげだ。
「ちぇっ、俺の足がつらなかったらゲームはわからなかったのに。」
「足がつるってことは、鍛え方が足りないのだよ、園山君。それも実力のうちってこと。」
「はいはい。」
英はちょっとムッとした顔をしたが、言われていることは当たっていたので、それ以上返さなかった。

和人はその様子を見て笑っていた。
もちろんゲームに勝ったから気分は良かった。
でも、それよりももっと嬉しいことがあった。
だから顔が自然とほころんできたのだ。

その嬉しいこととは、チームに最も必要な選手 ― ”司令塔”の誕生だった。
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