手をのばす
「由紀子、しばらく残業多かったでしょう。それであんまり一緒にいられなくなったし、由紀子がだんだん沢渡さんに惹かれてるのも、気づいてたの」



「そ、そうなの?」

「それで寂しくて。そんな時にたまたま優しくしてくれたのが、あの人。食事に連れ出してくれたり、一緒にいてくれるだけで、少しは寂しくなかったから」


「そう・・・・・・」

何も言えなかった。

不倫の始まりに、自分の行動が関わってしまっているなんて。


「箱根に一緒に行ったのもあの人なの。結局それが奥さんに怪しまれるきっかけになったみたいだけど。相手が部長だなんて由紀子に言えなかったから、友達だなんて嘘ついてごめん」


暗い店の中に、ぽつ、ぽつ、と沙耶の独白が続く。

「あたし、どうしても許せなかったの」

なに?と沙耶に目を向けた。

「どうして由紀子とあんな男が・・・・・・。だから邪魔したかったの」




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