手をのばす
店のドアをゆっくり押すと「いらっしゃいませ」と声がかかり、

私と同じ歳くらいの女性が

「お好きな席へどうぞ」

とくつろいだ声で言った。

私は、外から見るよりも広い店内を見渡した。


緑や花がふんだんに植えてある中庭が見えた。

よく見ると中庭に向かう大きなガラスの壁が開閉式になっていて、それが開かれていることでよりフロアを広く見せている。


奥の方に、中庭がよく眺められそうな席があいていた。


私は椅子に深く腰掛けて、おしぼりで手を拭きながら外を見た。


土と緑の、しっとりとしたにおいがする。


それに混ざって挽いたコーヒーの香り。



落ち着く。



一人でここに来て、本当によかったと思う。
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