手をのばす
ぐっと奥歯に力が入ってしまったことに気づいて、はあ、と私は小さなため息をついた。

外の風景に目をうつして、しばらくぼうっとしていた。



あんまり考えすぎもよくないか。

ゆっくりいこう。


しばらくするとそう思えるようになって、再びコーヒーに手をのばすとちょっと冷めてしまっていた。

おかわりをしようとカウンターの方に目をやると、男性スタッフと視線がぶつかった。

彼はすぐに意を察し、私の席へやってきた。


「同じものもう一杯ください」


と私が告げると、男性はかしこまりました、と答えたのに、なぜか戻ろうとしない。

「?以上でお願いします」

もっとオーダーすると思っているのかな?と私が言った時






「もしかして、江崎さん?」






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