手をのばす
頭の上から思いがけず自分の苗字が降ってきて、

「え?」と言葉にならず口だけその形にしたまま、声の主を見あげた。


「そ、そうですけど・・・」

何とかそれだけ言えたけれど、その男性をまじまじと見ても誰か思い当たらない。


でも声の主はたちまち笑顔になって


「やっぱり!ああよかった。店に入ってきたときからあれ?って思ってたんですよ。
俺、沢渡雄介です。覚えてないですよね。高校のとき一緒のクラスになったことなかったし」

と言った。



沢渡、高校というキーワードが出てきて、やっと思い当たる人物が浮かんだ。


ああ、隣のクラスにいた明るい男の子?


サッカー部のキャプテンで、いつも友達に囲まれていて目立っていたし、私にとってうらやましくて遠い、つまり関係ない存在だった。


もちろん接点などなく、一度も話したことなんてない。


そんな彼が、目立たない私のことを覚えているなんて・・・。



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