手をのばす
ラーメン屋を出た後「うまかったー」と沢渡が言い、私もつられて

「うまかったー」と笑った。


「俺どんなに暑い日でも無性にラーメン食べたくなるんだ。落ち込んだ日にもよく食いに行くなあ。高校のとき部活帰りにみんなでがつがつ食べたこととかも思い出して少しセンチメンタルにもなるけどね」


そう言ってから恥ずかしそうに頭をかいた。


「沢渡くんてみんなと仲よさそうだったものね。楽しそうでうらやましかった」

「そっかー」

「真っ黒に日焼けして、あの人いつも元気だなあって思ってた」


気がつけば私はすっかり笑顔を取り戻していた。

さっきまで、何もかもがモノクロに見えたくらいなのに。



隣で笑う沢渡の横顔を見上げる。


その鮮やかな映像は、アパートへ帰ってからも、眠りにつく直前までも、ずっとずっと心に焼き付いていた。
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