君に咲く花火
どの人も同じ言葉を何度も言っている。

よく聞いてみると、
「タクシー」
と言っているようだった。

「タクシーいらない。迎えが来るから」

そう言うが、当然日本語は伝わらないから、一向に口を閉ざす気配がない。

「いらないってば。お姉ちゃんまだなの?」

あまりの暑さに額を流れる汗を拭きながら、困っていると、
「椎名実羽ちゃん?」
と、男たちの向こうから声が聞こえた。

「え?誰か私の名前呼んだ?」

声のしたほうを見てみるが、タイ人しか見えない。

「良かった、見つけた」

そう言っているのは、男たちの向こうにいる若そうな男性。

どう見てもタイ人。
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